| シリーズの最後に、血圧の薬(降圧剤)のことをお話します。
@降圧剤は一生飲まないといけない?
血圧が当初からよほど高い人や、食事・運動をおこなっても降圧しない人には降圧剤を処方します。「お薬をだします」と言うと決まって「血圧の薬ちゅうのは、一回飲んだら死のうまで飲むだかね?」とおっしゃいます。答えは単純なものでして、「高ければ飲むし、良ければ飲まない」ということです。食事、運動療法などが効を奏し血圧がうんと下がってくれば中止することができます。ところが現実的にはそのような場合はかなり少なく、むしろ加齢とともに血圧は上昇する傾向があるので、結果として中止することができない、ということが大半なのです。

A降圧剤の副作用と利点
薬を内服することに抵抗感がある方は、きっと副作用のことを心配しておられるのでしょう。個人個人によって体質や他にわずらっている病気がいろいろありますから副作用には注意するには越したことはありません。例えば血圧は下がったが、喘息が悪くなった、などというのは困ります。ですから、処方するときは、他にどんな疾患があるのかを考え、何系統かある降圧剤の中からその疾患に影響の無いものを選びます。しかし最近の降圧剤は副作用は非常に少なくなってきました。またここ十数年の間に、降圧剤を内服した患者さん達としなかった患者さん達とを数年間にわたって比較したり、初期の薬と最近の薬との効果を数年にわたって比較したりする大規模な研究が盛んに行われました。その結果、病状に合った降圧剤であれば合併症予防の上で圧倒的に有益であることが証明されてきました。
B降圧剤の進歩と選択
かつて私が医師になりたての頃は1日3回内服というのがありました。これでは血中濃度が大きく変動し、動脈に負荷がかかります。最近の降圧剤は一日一回の内服でよいものが大半です。一回飲むと24時間以上の効果が期待でき、中には翌日の夕刻ぐらいまで持続するものもあります。血中濃度の変動が少なく、夜間の降圧にも有効です。ただ困ったことに、夕方血圧が高いからといって朝の薬を同じ日の夕刻また飲んでしまう方がおられます。これは害になるだけなのでやめて頂きたいです。
最近の降圧剤の特徴として、降圧だけではなく「臓器保護」ということが言われる様になりました。高血圧の患者さんの中には、心臓病や腎臓病、脳梗塞など循環器関連疾患を合併されている方が多くいらっしゃいます。というより高血圧という疾患が原因となってそれらの疾患が起こってしまったと考えられる場合が非常に多いです。たとえばARB(アンギオテンシンU受容体拮抗薬)という系統の薬は降圧作用に加えて心肥大の退縮や心不全の改善効果、腎保護作用などがあり、該当疾患にあわせた種類の降圧剤を選択することが大切です。
C充分な降圧をめざして
実は、一種類の薬で充分なコントロール状態になる患者さんは五十%ほどです。残り半分の方は2剤、3剤と系統の異なる降圧剤を組み合わせて飲んでいただかなければうまく行きません。「薬ばっかり増えて…」と思われるかも知れませんが、適切な降圧はどうしても必要なのです。また、降圧剤は、飲んだらどこかが楽になった、という類の薬ではありません。予防薬です。自覚的な効果がないとつい飲みたくなくなってしまいます。でも、人間は何か悪い出来事が起こったことには非常に敏感ですが、「悪い出来事が起こらなかった」ということについては気がつかないものです。降圧剤は知らず知らずのうちにこの悪い出来事から護っていてくれる、そんな薬と考えて頂き、質の高いQOLを保ったまま天寿を迎えたいものです。
※イラストは越田先生によって描いて頂きました。
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